地球上で最も高い山を横断する旅
バイクと山へをこよなく愛しているからこそ、今回のような旅が実現します。
なぜなら、エベレストは目的地の中でも最も重要な目的地になる地球上で最も高い山だからです。
12月下旬にヒマラヤに飛び、中国の一地方であるチベットの主要都市ラサから、エベレストのベース・キャンプへ移動するところから旅が始まります。
ある種の覚悟が必要な旅であることは、間違いありません。
12月下旬というシーズンを選んだのは、寒い場所に行くのが好き、ということではありません。
冬にこの地に向かったのは、エベレストの山頂を見ることができる可能性が高いからです。
というのも、6~9月までの暖かい季節はモンスーンのシーズンなので、山頂付近が晴れていることがほとんどありません。
この旅では、気温0~20℃のオフロードを、毎日約300~400km走行します。
観光客や登山者が訪れないシーズンになるので、何か月も前から閉鎖されているエリアで、文字通り凍りつくような環境で過ごすことになります。
適切な服装をすることは、望ましい、というよりも不可欠と言った方がいいかもしれません。
服装の選び方には2つのレベルがあります。
凍えないようにとにかく体を覆うか、あるいは一歩進んで、極限状態でも暖かく快適に過ごすための完璧な装備を整えるかです。
マイナス20℃でも寒さを感じることがないほどの完璧な装備であれば、ライディングや景色を楽しむことができます。
楽しむためには、まずは寒さを何とかしなければなりません。
外部の環境や悪天候に対応するには、やはりGORE-TEX®の冬用ツーリング・ジャケットがベストでしょう。
本当の寒さに立ち向かうためには、グースダウンのインナーを装備した天候の変化に強いツーリング・ジャケットや、保温性に優れ快適性を確保するためのテクニカル・インナーが必要になります。
渓谷、太古の川が刻んだ峡谷、珍しい青色をした山の湖、息を呑むほど美しく堂々とした山頂など、チベットの旅は寒さが厳しい冬であっても素晴らしいことが分かります。
ラサの標高3,650mからスタートすると、何日も標高4,000m以下になることはなく、さらには5,000mを超える区間も多いため、人差し指につけた装置で、1日に何度も血中の酸素濃度をチェックしながら高所を移動することになります。
今回の目的地は、ロンブク氷河の麓にある「ノースベースキャンプ」です。
このベースキャンプへ続く道は、1年ほど前に、中国政府が25km手前で自動車の通行を禁止することを決定したため、バイクで向かうことはできず、残りの行程は電気バスで移動することになりました。
また、ここでは、観光目的の登山者がキャンプに残していった何トンものゴミが撤去されています。
中国政府はこの山を保護するために動いているのです。なぜなら、エベレストは大きな観光資源であると共に、自然遺産でもあるからです。
そして、自然遺産としての価値があるからこそ、私たちはこの場所が好きなのです。
ロンボク寺院の前でバスを降りると、最後の1キロは徒歩での移動となります。
目の前にエベレストがあること、もちろんそれは感動的なのですが、実際には8,000m級の山が目の前にそびえ立っている訳ではありません。
私たちはすでに5,350mの地点にいて、そこからさらに3,500mほどを登ろうとしているからです。
息ができないほどの強風、笑うとすぐに唇が切れてしまうほどの寒さがそこにはあります。
しかし、私たちの体はしっかりと守られているので、30分ほど留まり、山の景色を眺めたり、考えを巡らせたり、祈りを捧げたりすることができます。
中には涙を流している人もいますが、それは身体的な辛さではなく、心が解き放たれたことによる感動の涙でしょう。
雲のないエベレストの山を実際に見ると、ここまで来るのはそれほど大変ではなかったと思えます。
エベレストのチベット名であるチョモランマは、世界でも数少ない、本当に意味のある場所だと感じます。
この地は、夢を追う人、アスリート、挑戦や再戦を挑む人など、すべての人が理由を持って訪れる、多くの人々の物語、涙、希望が残された場所です。
そして、多くの人がここで自分自身や悪魔と戦い、命を落としてきました。
この場所は、あなたに本当の感動を与えてくれます。
寒さから私たちを守ってくれたウェアは、体温だけでなく、感動をも内側に閉じ込めてくれたようです。
そしてその感動は今、私たちの中で生きており、永遠に私たちの心の中に留まることでしょう。